1009

良くないことばかり思い出す。ここで終わってしまったらこの人生は確実に失敗だという気がする。

こうやって書いたものはいつまで残っている。自分が見つけようと思えば見つけられる所にある。インクの染みとインクの染み込んだ紙は処分しない限りすぐに消えたりしない。そう考えると声はすぐに消えるし便利だ。空気の振動はいつまでも残らない。けれど誰かに声を聞かれていたら、それは他人の中に記憶として残ってしまう。他人は驚くぐらいに自己の記憶を信用している。それをたまに不思議に思う。聞き間違いかもしれないのに、思い違いかもしれないのに、些細なことなのに覚えている。少し怖い。自分にとって些細な言葉が他人の記憶に深く残ったりする。そういう経験が多かっただけだと思うけれど。

長生きすればする程、感動できるものを見つけるのが困難になる気がする。生まれたばかりのときは全てが自分にとって新しいものだったはずで、生きていれば新しいかったものは既知のものになってしまう。なにより言葉を知って自分の感情やらなにやらを言葉に当てはめるのが上達してしまう。国語の勉強をすれば言葉にできないものを見つけにくくなる。気がする。一度目以降の経験は一度目の経験のときの感覚を引き出しから引っ張り出して使っているような気がする。

生きていれば無意識にパターンを学習してしまう。経験した感動を踏まえて新しい感動を見つける。やっぱり少しずつ難しくなっていくような気がする。

もうよくわからないし、そんなことはないような気がしてきた。